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「持ち家は資産か」

 ドイツ人が「日本人はダイヤモンドを捨てて石ころを拾っている」と揶揄したという記事を読みました。これは、長年使用されてきた信頼性の高い住居を捨て、新築を建てることをヨシとする日本人の住宅に対する価値観に対する揶揄のようです。しかし、日本とヨーロッパでは環境も工法も建材も違います。

ヨーロッパ:地震が少ない、乾燥している、水害が少ない、古い建築には石造りやレンガ造りが多い
日本:地震大国、高温多湿、水害が多い、木造建築がほとんど

 ヨーロッパでは、古い家屋=長年環境に耐えた実績を評価しています。また、家具やアクセサリーを見てもアンティークなどの古く歴史あるものを尊重する文化があります。
 しかし、日本では地震の揺れ、湿度・水害による腐朽、蟻害、地盤のゆるみ、躯体の歪みと建物は経年劣化するのが通常で当然の価値観です。これにより古い家屋=どこかに欠陥がありそうという認識になります。

ヨーロッパ:古い歴史あるものを尊重し、価値を認める文化が、古い家屋を高く評価する土台になっている。
日本:厳しい自然環境と災害の多さから建物が経年劣化することは常識であり、古い家屋には欠陥があるのが常と捉えている。

目次

既存住宅の売買に関する国際比較

 国土交通省の令和7年住宅経済関連データから住宅投資に関する国際比較データを参照すると、GDPに対する住宅投資名目値ではフランス・ドイツとは差があるものの米国・英国とはさほど差がありません。しかし、国内総固定資本形成比率でみると明らかに日本が低く、ドイツの半分程度になります。

 また、滅失までの平均築後年数でみると、日本は35.7年で滅失するのに対して、米国では56.7年、英国では51.4年と15年以上の差があります。

 更に、既存住宅の流通シェア(取引件数中の既存住宅比率)を見ると日本は16.2%しかないのに対し、米国では74.3%、英国では82.4%、フランスでは74.5%とそれぞれ大きく差が開いています

 日本では家を買う=新築なのに対し、米英仏では家を買う=既存住宅だということです。

 そして、既存住宅のシェアがあるからこそ、持ち家は売ることができる=換価性のある資産として認識され、固定資本形成に寄与しているということです。
 日本では、住宅ローンの完済後まもなく住宅の平均寿命に達してしまう=家は消費財であって固定資本ではないという図式が成立してしまいます。

家を「消費財とみなす日本は新築」を「資産とみなす欧米は既存住宅」を購入する?

消費財に数千万円を長期ローンで負担する日本人

 日本のGDPは以前、米国に次ぐ世界第2位でした。しかし、中国、ドイツ、そして2024年にはインドにも抜かれ、2026年現在は世界第5位になっています。国内需要はコロナ禍以降の物価高、円安によって低迷しています。以前は失われた30年と言われていましたが、低金利、円高によって物価上昇が抑えられ、賃金が上昇しないにもかかわらず国民生活に今ほど不安はなかったように感じます。

 それ以前の高度経済成長期やバブル期には当時の高金利下で組まれた今よりも高い金利の住宅ローンで新築住宅が建てられていました。それは、経済成長下で経済的不安が少なく、負動産は下落しにくい=資産であるという認識の基に行われた投資でした。

日本でも好景気下では、不動産を「資産」とみなし、投資対象としていた。

 しかし、その後のバブル崩壊、就職氷河期、少子高齢化の影響もあり、低迷する経済の中で適切な維持管理がなされないまま、当時建てられた住宅は継ぎ手・買い手不在のただ経年劣化した負動産などと揶揄されるに至ったのではないでしょうか。

管理されていない不動産は「経年劣化しただけの負動産」と揶揄されても仕方がない。

負動産を資源に

そこで提案

新築で消費財を買うのではなく、既存住宅を資源とみなして再利用を試みるというのは?

 欧州の住宅に対する意識を一部、日本の住宅にも適用できないのかという視点です。日本家屋にも特に欠陥もなく長年住み続けられた住宅というのは少なからずあります。

 昭和56年以前の旧耐震基準によって建てられた軸組み工法の築古の住宅にも、基礎や躯体に問題がなく、長年の居住にそして厳しい風土環境に耐えて現存する、磨けば光る原石のような住宅が存在しているのではないでしょうか。建材自体に希少性や価値があり、卓越した技術を持った大工さまの手による丁寧な仕事で建てられた住宅はまさしくそれです。軸組み工法の場合は躯体自体を生かして比較的自由な改修が可能です。古い家屋を現代風の広いリビングにしアイランドキッチンを導入し、吹き抜けの気持ちの良い空間などを実現できる可能性が残されています。壁の構造や窓のリノベを施せば気密性・断熱性を向上して省エネ住宅化も不可能ではありません。かし保険やフラット35を利用するとなると耐震改修が必要になり、大規模改修で相応の改修費用は必要になりますが、新築よりも信頼できる基礎と躯体を生かした住宅になる可能性を秘めています。

 2×4(ツーバイフォー)の住宅は比較的新しく、壁構造による耐久性を備えた欧米の工法です。昭和56年以降の新耐震基準で建てられているものが多く、基礎・躯体に問題が無ければ、現状有姿で既存住宅売買瑕疵保険の付保が可能な住宅も少なくありません。それは同時にフラット35を利用できる可能性も高くなります。軸組み工法と違い、改修の自由性はどうしても狭くはなりますが、大きな費用をかけずとも再利用可能性が高く、同時にそれは再販可能性も高くなると思います。

資源を磨いて資産に

 フランスやドイツではワインを長年貯蔵して味や香りを深めその価値を高めます。英国や米国では樽に蒸留酒を詰め、長年熟成して熟成によって刺激をやわらげ香りを深めてその価値を高めます。日本では日本酒を新鮮なうちに消費します。焼酎には長年熟成するものもありますが、消費されるほとんどは熟成していないものです。

 近年、日本のワインやウイスキーも世界的な評価を高め、時間を価値に変える手法が定着しつつあります。元来、投資というのは原資に時間をかけて利益を得るものです。

日本の住宅も資源と捉え、時間をかけて資産とする道はないのでしょうか。

工法別既存住宅の価値保存のススメ

 軸組み工法の住宅は、自由な間取りで新築された経緯を持つため、非常に個性的です。改修の自由性は比較的高いのですが、初期の設計に左右されるため誰にでもお勧めできる普遍的な価値からは遠い存在です。しかし、50年程度特に問題もなく建っていて住まわれていた家であれば、地震や風雨に長期間耐えた実績があります。地盤や基礎、躯体を入念に調査・検査する必要はありそうですが、欧州の方が評価するような信頼性があるとも言えます。調査・検査してその証明を得て、大規模改修し、その設計図面を備え、定期的な検査や補修を施し、その履歴を証明することができれば、履歴書付きのワインのような「暦年で積み上げる価値」を持った家になるのではないでしょうか。

軸組み工法は、
メリットとして
・自由な間取り ・非常に個性的 ・改修の自由性は比較的高い
デメリットとして
・初期の設計に左右される ・普遍的な価値からは遠い ・調査・検査する必要性

 2×4工法の場合は、箱型で普遍的な使い勝手の良い比較的新しい間取や設計になっています。間取を大きく変えるような改修は難しいですが、普遍性を維持し、外観や内装を整え、適切な管理を計画的に実施し、その履歴を証明すれば「価値を維持する」ことはできるのではないでしょうか。

2×4工法は、
メリットとして
・普遍的 ・使いが手が良い ・比較的新しい間取や設計
デメリットとして
・個性は薄い ・間取を大きくは変えられない ・2×4工法を証明できるか

 一見すると上記の維持管理とその履歴を遺して価値を維持するという考え方は、個人的な希望的観測に感じられるかも知れません。しかし、この考え方は国土交通省が既存住宅関連の専門家の方々を集めて検討された「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」に書かれた内容を将来的視点で再解釈しただけです。リフォームや補修等が行われた場合は、住宅の価値は回復するという考え方が基本です。しかし、その履歴が第三者にも理解できるように客観的に正当に証明されなければ正当な評価はできません。そして、査定時点での実際の使用価値が確認できなければいけません。ということは、基礎・躯体の機能が喪失しておらず、補修・改修の履歴が証明でき、使用価値が確認できれば、その住宅には価値があり、同時に信頼性が高いと言えるのではないでしょうか。現在の日本の空き家問題の本質は、住宅が古いことではなく「適切な管理と正当な評価がされていない」ことだと言い換えても良いでしょう。

国で招集した専門家の検討では、
・住宅の価値は、リフォームや補修で回復する ・客観的な証明があれば正当に評価できる ・査定時の使用価値を確認できる
上記の条件を満たせれば、日本の建物を正当に公正に評価し、それを市場に反映できれば建物評価は改善されると考えられたようです。

空き家問題の本質とは、住宅の適切な管理と正当な評価が欠けていることから起きていると言えるのではないでしょうか。

資産というからには

 前述の国土交通省で招集した「中古住宅に係る建物評価の改善のあり方検討委員会」の言う使用価値とは、市場価値とは異なる基準であって、実際の取引価格にはならないかも知れません。発表当時にも使用価値からみた価格基準は参考価格として活用されることを想定していました。しかし、発表から10年が経過してもあまり浸透しておらず、今一つ既存住宅の市場への影響を実感できません。しかし、使用価値がある=住むことができるということは「賃貸戸建て住宅」としての運用が可能だということではないでしょうか。

結論:適切に維持管理し証明できるならば、売れずとも貸すことで運用できる = 持ち家は資産になり得る

 どうでしょう、低廉な空き家等を資源として捉え、再生して資産の一部に組み込み、余力で資産運用して将来に備えつつ、時に住まいとして、時に収入源として活用するならば持ち家=資産が成立するのではないでしょうか。

出典一覧

令和7年度住宅経済関連データ

中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針

出典元:国土交通省

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